土砂災害とは、大雨や地震などをきっかけに、土や岩が一気に崩れ落ちて人や建物に大きな被害を及ぼす現象です。日本は雨や雪が多く、山地が多い地形や地震の多さなどが重なり、世界的にも土砂災害が発生しやすい国といわれています。いつどこで起こるかわからないからこそ、発生の仕組みや前兆を知り、日頃から備えておくことが大切です。
本記事では、土砂災害の種類や日本で土砂災害が発生しやすい理由について詳しく解説します。また、土砂災害から身を守るための対策を3つ紹介するので、災害への対策を進めたい方はぜひ最後までお読みください。
土砂災害の種類とは?

土砂災害には、大きく分けて土石流・地すべり・がけ崩れの3種類があります。ここでは、それぞれの土砂災害の仕組みや特徴について詳しく解説します。種類ごとの違いや発生の仕組みを理解したい方はぜひチェックしてください。
土石流
土石流は大雨などが原因で山や谷の土・石・砂が崩れて、水と混じって一気に流れ下る現象です。時速20kmから40kmと流れる速度が早く、一瞬のうちに人家や畑などを壊滅させてしまうこともあります。
腐った土のにおいがする、雨が降っているのに川の水位が下がるなどの前兆があれば危険が高まっているサインです。異変を感じたら直ちにその場から離れて、安全な場所へ避難しましょう。
出典:土砂災害から身を守る3つのポイント あなたも危険な場所にお住まいかもしれません!|政府広報オンライン
地すべり
地すべりは、比較的ゆるやかな斜面が、雨や雪解け水が染み込んだ地下水の影響で滑り落ちる現象です。地すべりは広範囲にわたって地盤が動くため、住宅や道路に大きな被害を与えます。
主な前兆には山鳴りがする、がけや斜面から水が噴き出す、地面に亀裂や段差ができるなどがあります。これらの現象を確認したら、速やかに避難することが大切です。
がけ崩れ
がけ崩れは、急な斜面が大雨や地震の揺れによって突然崩れ落ちる現象です。一瞬で大量の土砂が崩れ落ちるため、がけの下にいる人は逃げ遅れることが多く、大きな被害につながります。
主な前兆には、がけにひび割れができる、小石がパラパラと落ちてくるなどがあります。大雨や大きな地震が発生した後は、がけ崩れが発生しやすいので特に警戒が必要です。
土砂災害の発生件数
土砂災害は全国的に多発しています。2024年には45都道府県で1,433件の土砂災害が発生し、56名が亡くなり705戸の人家被害が出ました。1982年の統計開始以降の平均発生件数を上回る結果となっています。
国土交通省や自治体も対策を進めていますが、災害は突然起こるものです。自宅周辺の危険区域を把握し、避難経路を確認するなど、一人ひとりが備えることが命を守るカギとなります。
日本で土砂災害が多い理由

日本は地形や気候などの自然条件から、世界的に見ても土砂災害が起こりやすい国です。ここでは、日本で土砂災害が発生しやすい理由を4つ解説します。なぜ土砂災害が発生するのか気になる方は、ぜひチェックしてみてください。
雨・雪が多いから
日本で土砂災害が多い要因の1つは、雨や雪が多いことです。日本は海に囲まれており、湿った空気の影響で世界平均の約2.5倍もの雨や雪が降ります。特に、梅雨や台風の時期には短時間でまとまった大雨が降り、地盤を急激にゆるめて被害をもたらします。
さらに、国土の約半分が積雪地帯であり、そこに多くの方が住んでいることも特徴です。雪崩や雪解け水が原因で地盤が緩み、がけ崩れや土石流などの土砂災害が発生しやすくなります。雨・雪が多い日本の自然条件そのものが、土砂災害のリスクを高めています。
出典:土砂災害の多い日本|国土交通省 近畿地方整備局 六甲砂防事務所、(参考資料)豪雪地帯の現状|国土交通省
山地が多く地質がもろいから
日本は国土の約70%は山や丘陵で占められており、土砂災害が起きやすい地形であることも理由の1つです。特に高く険しい山が多く、雨や風の影響を強く受けます。
また、多くの山は崩れやすい地質でできており、地盤が水分を含むと一気に崩れやすくなるのも特徴です。その結果、豪雨や地震の際にがけ崩れや土石流、地すべりなどの災害が発生しやすい環境となっています。
出典:土砂災害の多い日本|国土交通省 近畿地方整備局 六甲砂防事務所
地震が多いから
地震の多さも日本で土砂災害が多発する大きな原因です。地震の揺れによって地盤が崩れ、がけ崩れや地すべりが発生します。さらに、土砂が川をせき止めることで自然ダムができ、決壊すると洪水や土石流を引き起こす可能性もあります。
実際に、2024年1月の能登半島地震や同年9月の豪雨では、がけ崩れや土石流による大きな被害が報告されました。頻発する地震は土砂災害の引き金となり、被害を一層拡大させる要因となります。
出典:令和6年(2024年)能登半島地震による土砂災害|国土交通省 国土地理院
流れの速い川が多いから
日本は高く険しい山が多く、そこから流れ出る川は傾きが大きく水の流れも速いのが特徴です。流れが速いほど川底や岸の土を削る力も強まり、山から削り取られた土砂が下流へ運ばれて川底に堆積します。川底が高くなると水が溢れやすくなり、洪水の原因になることも少なくありません。
土砂災害警戒区域とは?
土砂災害警戒区域には、危険度に応じてイエローゾーン(警戒区域)とレッドゾーン(特別警戒区域)の2種類があります。ここでは、それぞれの特徴について詳しく説明します。
土砂災害警戒区域(イエローゾーン)
イエローゾーンは、土砂災害が発生した際に住民の生命に危険が及ぶ可能性がある地域です。がけ崩れや土石流、地すべりなどが想定される場所を対象に、自治体が地形や過去の災害記録を調査して指定します。
この区域では、住民の早期避難や安全確保を目的とした、警戒避難体制の整備やハザードマップの活用が特に重要とされます。指定された地域では、日頃から災害情報を確認し、避難経路や場所を家族で共有するなどの備えが必要です。
土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)
レッドゾーンは、土砂災害警戒区域の中でも特に危険性が高い地域です。土砂災害が発生した場合、建物の損壊や住民の生命に著しい危害を及ぼすおそれがあると認められ、自治体が調査を経て指定します。
この区域では、建築物の構造や土地利用に対して法律で規制がかかり、新築や改築の際には安全性を確保する対策が義務づけられます。
土砂災害から身を守るための3つの対策

土砂災害は突然発生するので、日頃の備えと早めの行動が欠かせません。ここでは、土砂災害から身を守るための3つの対策を紹介します。
1. 自宅が土砂災害警戒区域かどうか確認する
まずは、自宅が土砂災害警戒区域かどうかを確認しましょう。土砂災害の危険がある地区は、自治体が土砂災害警戒区域として指定し、ハザードマップに示しています。
区域内に住んでいる場合は、避難のタイミングや経路を事前に把握し、家族で共有しておきましょう。区域外であっても周辺の地形によっては被害の可能性があるため、日頃から最新のハザードマップを見て備えることが大切です。
2. 土砂災害警戒情報に注意する
雨が強くなってきた場合は、土砂災害警戒情報に注意しましょう。この情報は警戒レベル4相当で、避難が必要な危険度を示します。気象庁の公式サイトや各都道府県の砂防課、テレビの気象情報などで随時発表されるので、こまめにチェックしましょう。
自分が住む地域に土砂災害警戒情報が出た場合は、迷わず安全な避難場所へ移動することが必要です。夜間や豪雨の中での移動は危険も伴うため、早めの判断と行動を心がけ、家族とも情報を共有しておきましょう。
3. 避難場所を家族で共有しておく
災害時の混乱を防ぐには、避難場所と避難経路を家族で事前に共有しておくことが大切です。市町村が提供するハザードマップには、避難場所や避難経路が詳しく記載されています。事前に地図を確認しておけば、何もしていない場合と比較すると冷静に行動できるでしょう。
また、ハザードマップでは土砂災害以外の浸水や地震などのリスクも確認できるため、防災意識を高める上でも役立ちます。家族全員が場所を覚えて、いつでも行動できるよう備えておきましょう。
台風・地震における行動チェックリスト
台風や地震は土砂災害を引き起こす大きな要因です。災害発生時に迷わず行動できるように、日頃からやるべき備えや災害時の行動を整理しておきましょう。台風・地震それぞれのチェックリストは以下の通りです。
▼台風
| タイムライン | チェック | 具体的な行動 |
|---|---|---|
| 台風接近3日前 | □ | 自宅・職場の危険度をハザードマップで確認する |
| □ | 避難場所・避難経路を家族で共有する | |
| □ | 気象庁の台風情報や警報・注意報を確認する | |
| 台風接近前日 | □ | 風で飛ばされそうなものはすべて片付けるか固定する |
| □ | 窓・雨戸に鍵をかけて必要なら補強する | |
| □ | 側溝・排水溝を掃除して浸水に備える | |
| □ | お風呂に水を貯めて生活用水を確保する | |
| □ | スマホ・モバイルバッテリーを充電する | |
| □ | 防災グッズ・備蓄品を準備する | |
| 台風接近当日 | □ | 不要不急の外出は絶対にしない |
| □ | 川やがけ、海など危険な場所には絶対に近づかない | |
| □ | 窓に近づかない |
▼地震
| 屋内で地震が発生した場合 | |
| リビング・寝室・オフィスなど | ・低い姿勢で丈夫な机の下に隠れる ・クッションなどで頭を守る ・揺れが収まって外に出る場合は、落下物に注意し、窓際から離れる |
| キッチン | ・揺れが収まってから落ち着いて火を消す ・無理に火に近づかず、ものが落ちてこない場所で身を守る |
| 浴室・トイレ | ・ドアを開けて避難経路を確保する ・鏡の破片や転倒物に注意して落ち着いて行動する |
| スーパー・デパートなど商業施設 | ・落下物のない広い場所に移動する ・店員や施設の指示に従う |
| エレベーターの中 | ・すべての階のボタンを押して停止するのを待つ ・降りられない場合、無理にドアを開けて降りようとせず、非常用インターホンで外部に連絡する ・避難時は階段を使う |
| 屋外で地震が発生した場合 | |
| 住宅街・ビル街 | ・建物の外壁材・ブロック塀・看板などの落下から身を守るため、カバンで頭を保護し、危険物から離れる |
| 山・がけ付近 | ・山崩れ、がけ崩れ、落石の危険があるため、すぐにその場から離れる |
| 海・川の近く | ・警報を待たずに、直ちに高台や津波避難ビルに避難する |
| 乗り物に乗っていた場合 | |
| 自動車の運転中 | ・追突の危険があるため、急ブレーキは避ける ・ハザードランプをつけてゆっくりと道路の左側に停車する |
| 電車・バス・地下鉄の中 | ・急停車に備え、つり革や手すりにしっかりつかまる ・自己判断せず、乗務員の指示に従う |
事前にチェックリストを確認しておくことで、災害時でも迷わずに冷静に行動できます。災害発生前や発生直後に取るべき行動がわからない方はぜひ活用してください。
日頃の準備で土砂災害から身を守ろう!
土砂災害は大雨や地震などによって突然発生し、人命や住まいに大きな被害をもたらします。日本は雨や雪が多く、山地が多い地形や急流の川、地震の多さなど、土砂災害が起こりやすい条件の国です。
まずは、自宅が土砂災害警戒区域かどうかを確認し、避難経路や避難場所を家族で共有しておくことが大切です。また、土砂災害警戒情報や天気予報にも注意を払い、異変を感じたら迷わず安全な場所へ避難しましょう。正しい知識と早めの行動が、自分と大切な方を守る最善の備えとなります。



