災害に備える

南海トラフはいつ来る?政府の被害想定と今すぐできる防災対策を解説

政府は、南海トラフ地震が30年以内に発生する確率を80%程度としています。現在の科学技術では地震の正確な予知は困難ですが、いつ来るかわからないからこそ、日頃の備えが重要です。

この記事では、南海トラフ地震の発生確率や対策について解説します。この記事を読めば、南海トラフ地震の全体像がわかり、具体的に必要な準備や行動がわかるでしょう。「南海トラフはいつ来るの?」「どんな被害が出る?」と疑問や不安をお持ちの方は、ぜひ最後までお読みください。

目次

南海トラフ地震はいつ来る?発生確率は30年以内に80%とされている

政府は、南海トラフ地震が30年以内に80%の確率で発生すると評価しています。

出典:気象庁|南海トラフ地震に関連する情報

南海トラフ沿いでは、約100〜150年の間隔で大規模な地震が繰り返し発生してきました。1944年の昭和東南海地震と1946年の昭和南海地震からすでに約80年が経過しています。そのため、次の地震が発生する時期が迫っていると考えられています。

そもそも南海トラフ地震とは

南海トラフ地震とは、静岡県の駿河湾から九州の日向灘沖まで伸びる南海トラフ沿いで発生する大規模な地震です。

南海トラフ沿いにはプレートがあり、海側のプレートが陸側のプレートの下に少しずつ沈み込み、プレートの境界にひずみが蓄積しています。ひずみが限界に達してプレートが跳ね上がると、地震が発生します。この仕組みによって、過去に何度も繰り返し巨大地震が起きてきました。

南海トラフ地震がなかなか起きない理由

「発生確率が高いと言われ続けているのに、なぜなかなか起きないのか」と感じる方もいるかもしれません。しかし、現在の科学技術では、地震の発生時期や場所、規模を正確に予知できません。

気象庁は南海トラフ沿いでの異常な現象を観測した場合、南海トラフ地震臨時情報を発表することがあります。しかし、この情報が出たからといって必ず巨大地震が発生するわけではありません。

反対に、何の前触れもなく突発的に発生する可能性も十分にあります。つまり、なかなか起きないのではなく、いつ起きてもおかしくないというのが正しい認識です。

いつ発生しても適切な防災行動を取れるように、日頃から備えることが重要です。

南海トラフ地震の発生は予知できない

地震の前兆や予言などの情報に関心を持つ方もいるかもしれません。しかし、現在の科学技術では、地震を確実に予知することは不可能です。

インターネットやSNSでは、科学的根拠のないうわさやデマが拡散されることがあります。そのような情報に惑わされて不安を煽られたり、誤った行動を取ったりしないよう注意が必要です。

確実な予知ができないからこそ、いつ起きても対応できる備えをする必要があります。

南海トラフ地震の被害想定

津波避難看板

南海トラフ地震が発生した場合の被害は、震度6弱以上の揺れまたは津波高3m以上となる市町村が、31都府県の764市町村に及ぶと想定されています。

出典:内閣府防災情報のページ|南海トラフ巨大地震における被害想定

ここでは、政府が公表している被害想定について解説します。

【地域別】想定される震度・津波の高さ

南海トラフ巨大地震が発生した場合、その被害は全国の広範囲に及ぶと想定されています。

震度6弱以上の地域の割合都道府県
7割以上静岡県、愛知県、三重県、和歌山県、徳島県、高知県、宮崎県
5割以上7割未満香川県
5割未満茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、岐阜県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、愛媛県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、鹿児島県、沖縄県
出典:内閣府防災情報のページ|南海トラフ巨大地震における被害想定

震度6弱以上の揺れが7割以上に上るとされているのは、静岡県、愛知県、三重県、和歌山県、徳島県、高知県、宮崎県です。

想定される最大津波高都道府県
30.0m以上静岡県、高知県
20.0m~30.0m東京都(島嶼部)、愛知県、三重県、徳島県
10.0m~20.0m千葉県、和歌山県、愛媛県、大分県、宮崎県、鹿児島県
5.0m~10.0m茨城県、神奈川県、兵庫県
3.0m~5.0m福島県、東京都(区部)、大阪府、岡山県、広島県、山口県、香川県、福岡県、長崎県、熊本県、沖縄県
出典:内閣府防災情報のページ|地震モデル報告書 3.計算結果集 市町村別一覧表(令和7年3月31日公表)

津波は、東北地方から九州までの太平洋沿岸に襲来し、特に静岡県や高知県では30.0m以上の高い津波の到達が想定されています。

政府が公表している南海トラフの被害想定

南海トラフ巨大地震被害想定
人的被害約177,000人~約298,000人
経済被害想定224.9兆円
出典:内閣府防災情報のページ|南海トラフ巨大地震における被害想定

内閣府は、南海トラフ巨大地震が最大クラスの規模で発生した場合の人的・経済的被害についても想定を公表しています。

人的被害については、最悪の場合、死者数は約29万8,000人に上ると推計されています。また、経済被害想定は、最大約224.9兆円です。

ただし、上記の数値はそれぞれ特定のケースに基づいた想定です。実際の被害とは異なる場合があります。

今すぐ始める南海トラフ地震の6つの対策

避難グッズ

いつ来るかわからない巨大地震に備えるためには、以下6つの対策が重要です。

  1. 家具類の固定・配置の見直しをする
  2. 緊急持ち出し品・備蓄品を準備する
  3. 避難経路を確認する
  4. 安否確認方法を家族で共有する
  5. ライフライン対策をしておく
  6. 自宅の耐震診断を実施する

ここでは、今日からすぐに始められる6つの具体的な対策を紹介します。

対策1. 家具類の固定・配置の見直しをする

地震対策例

家具や家電の転倒防止は、身の安全を確保するための基本です。地震の強い揺れによって、家具や家電が転倒・落下・移動すると、ケガをしたり避難経路を塞いだりする危険があります。

本棚や食器棚、冷蔵庫といった背の高い家具や重い家電は、L字金具や突っ張り棒で壁や天井に固定しましょう。

また、家具の配置にも注意が必要です。寝室ではベッドの周りに背の高い家具を置かないようにしましょう。ドアや廊下など避難経路の近くは、ものが倒れてこないように配置する工夫が必要です。

対策2. 緊急持ち出し品・備蓄品を準備する

非常用持ち出し袋チェックリスト

チェックリストのダウンロードはこちら

避難時に持ち出す「緊急持ち出し品」と、自宅で避難生活を送るための「備蓄品」を用意しましょう。災害発生時には、ライフラインが止まり、支援物資がすぐに届かない可能性があります。

緊急持ち出し品は、避難する際にすぐに持ち出せるよう、リュックサックなどにまとめておきましょう。中には、飲料水、非常食、懐中電灯、携帯ラジオ、医薬品、貴重品などを入れます。

備蓄品は、ライフラインの復旧や支援が本格化するまでを乗り切るために必要です。最低でも3日分、できれば1週間分の食料、水、簡易トイレ、カセットコンロなどを準備しておくことが推奨されます。

対策3. 避難経路を確認する

災害が発生した際、安全かつ迅速に避難するためには、事前の準備が欠かせません。

まず、自治体が発行しているハザードマップを確認しましょう。ハザードマップには、津波の浸水想定区域や土砂災害の危険箇所、避難場所などが示されています。自宅や職場、学校周辺のリスクを把握し、安全な避難場所までの複数の避難経路を確認することが重要です。

また、実際にその経路を歩いてみることも大切です。ブロック塀や自動販売機など、地震で倒壊する危険性がある場所はないかなどを確認しながら、安全なルートを見つけましょう。

対策4. 安否確認方法を家族で共有する

災害時に備えて、家族で安否確認の方法を事前に話し合いましょう。災害は家族が一緒にいるときに起こるとは限らず、職場や学校などで離れた場所にいるケースも想定されます。

災害直後は固定電話や携帯電話がつながりにくくなるため、災害用伝言ダイヤル(171)や災害用伝言板(web171)を活用しましょう。これらのサービスは、自分の安否情報を音声やテキストで登録し、家族がそれを確認できる仕組みです。

事前に使い方を家族全員で確認し、いざというときにどの電話番号をキーにして連絡を取り合うかを決めておきましょう。

対策5. ライフライン対策をしておく

大規模な地震が発生すると、電気、ガス、水道といったライフラインが長期間にわたって停止する可能性があります。

停電に備えて、明かりの確保が必要です。懐中電灯やLEDランタン、ヘッドライトなどを各部屋や枕元に準備しておきましょう。

情報収集のために、電源の確保も欠かせません。スマートフォンやラジオなどに使う機器の電源を確保するため、モバイルバッテリーを常に充電しておく習慣をつけましょう。ポータブル電源があれば、さらに安心です。

そのほかにも、断水に備えて飲料水の確保や簡易トイレなども必要です。

対策6. 自宅の耐震診断を実施する

自宅の建築年月日を確認し、1981年6月1日以前だった場合は専門家による耐震診断を受けることを推奨します。1981年6月1日以前に建てられた建物は旧耐震基準に該当するため、大きな地震で倒壊する危険性があります。

多くの自治体では、耐震診断や耐震改修工事に対する補助金制度を設けています。市区町村の窓口に問い合わせて、制度を積極的に活用しましょう。

【シーン別】地震が起きたときに取るべき行動マニュアル

屋内で地震が発生した場合
リビング・寝室・オフィスなど・低い姿勢で丈夫な机の下に隠れる
・クッションなどで頭を守る
・揺れが収まって外に出る場合は、落下物に注意し、窓際から離れる
キッチン・揺れが収まってから落ち着いて火を消す
・無理に火に近づかず、ものが落ちてこない場所で身を守る
浴室・トイレ・ドアを開けて避難経路を確保する
・鏡の破片や転倒物に注意して落ち着いて行動する
スーパー・デパートなど商業施設・落下物のない広い場所に移動する
・店員や施設の指示に従う
エレベーターの中・すべての階のボタンを押して停止するのを待つ
・降りられない場合、無理にドアを開けて降りようとせず、非常用インターホンで外部に連絡する
・避難時は階段を使う
屋外で地震が発生した場合
住宅街・ビル街建物の外壁材・ブロック塀・看板などの落下から身を守るため、カバンで頭を保護し、危険物から離れる
山・がけ付近山崩れ、がけ崩れ、落石の危険があるため、すぐにその場から離れる
海・川の近く警報を待たずに、直ちに高台や津波避難ビルに避難する
乗り物に乗っていた場合
自動車の運転中・追突の危険があるため、急ブレーキは避ける
・ハザードランプをつけてゆっくりと道路の左側に停車する
電車・バス・地下鉄の中・急停車に備え、つり革や手すりにしっかりつかまる
・自己判断せず、乗務員の指示に従う

巨大地震は、いつ、どこで発生するかわかりません。いざというときにパニックにならず、冷静に行動できるよう、場所に応じた基本的な行動を覚えておきましょう。

見落としがちな二次災害「通電火災」

コンセント プラグ

地震発生時に注意すべきなのは、揺れや津波による直接的な被害だけではありません。避難後などに発生する二次災害、特に通電火災は危険です。

通電火災とは?

通電火災とは、停電が復旧した際に、再び電気が流れることが原因で発生する火災のことです。

たとえば、地震の揺れで、電気ストーブやアイロンなどの家電が転倒し、カーテンや布団などの燃えやすいものに接触した状態で停電する場合があります。その後、住民が避難して無人になった家で電気が復旧し、倒れた家電のスイッチがONになると、火災が発生する可能性があります。

実際に、阪神・淡路大震災や東日本大震災では、原因が特定された火災の半数以上が電気関係の出火でした。

通電火災対策には感震ブレーカーの設置

通電火災を防ぐために非常に有効なのが感震ブレーカーの設置です。感震ブレーカーとは、震度5強程度の強い揺れを感知すると、自動的に家庭のブレーカーを落として電力供給を遮断する装置です。

避難する際にブレーカーを手動で落とすのが最も確実な対策ですが、外出中や緊急時など、それができない状況も考えられます。感震ブレーカーを設置しておけば、自動で電気を止めてくれるため、通電火災のリスクを大幅に減らせます。

国や自治体も普及を推進しており、設置に補助金が出る場合もありますので、導入を検討してみてはいかがでしょうか。

南海トラフ地震に関するよくある質問

最後に、南海トラフ地震に関して多くの方が持つ疑問についてお答えします。

南海トラフが起こる前兆は?

南海トラフ地震の前兆として、前兆すべりがあります。前兆すべりはプレートの境界が、通常の地震のように急激にではなく、ゆっくりと滑る現象です。ひずみ計やGPSなどの地殻変動観測によって捉えられることがあります。

また、異常な地震活動も地震の前兆です。特定の地域で地震の回数が急に増えたり、逆に極端に少なくなったりする静穏化という現象が観測されることがあります。

ただし、これらの現象が観測されたとしても、それが必ずしも巨大地震の前兆とは断定できません。

南海トラフで生き残る確率は?

どれくらいの確率で生き残れるのか気になる方もいるでしょうが、一概に示せる生存確率はありません。生存の可能性は住んでいる場所の地盤や建物の耐震性、地震発生時の行動など複数の条件によって大きく変わります。

政府は最悪のケースを想定して死者数の想定を発表していますが、これは対策が十分でなかった場合の数字です。この記事で紹介した対策を一人ひとりが着実に実行することで、被害を大幅に減らし、生き残る確率を高められます。

南海トラフ地震で危ない県は?

政府の想定では、震度6弱以上の揺れ、または高さ3m以上の津波の影響を受ける可能性がある地域は31都府県に及びます。

特に、震源域に近く、強い揺れと高い津波が想定されている地域は、以下の通りです。

  • 静岡県
  • 愛知県
  • 三重県
  • 和歌山県
  • 徳島県
  • 香川県
  • 愛媛県
  • 高知県
  • 大分県
  • 宮崎県

出典:防災情報のページ|南海トラフ巨大地震における被害想定

しかし、これらの県以外でも、震度5強以上の揺れやインフラの寸断、経済的な影響は全国に及ぶ可能性があります。上記の地域以外に住んでいる場合も、当事者意識を持って備えることが大切です。

南海トラフ地震が来ても安全な県は?

南海トラフ巨大地震は、極めて広範囲に甚大な被害をもたらすと想定されているため、安全だと断定できる場所はありません。

巨大地震が発生すると物流システムが崩壊し、日本全国に影響が広がります。直接地震の被害が少ない場所でも、物資が不足したり、経済活動が停滞したりすることは避けられません。

直接的な被害リスクが低い地域であっても、この記事で紹介したように6つの地震対策をおこないましょう。

いつ来るかわからない南海トラフ地震に備えよう

南海トラフ地震は、30年以内に80%という高い発生確率で来るとされています。巨大地震の発生で、震度6弱以上の揺れ、または高さ3m以上の津波の影響を受けると想定されている地域は31都府県に及びます。

また、直接的な被害がなくても、物流システムの崩壊によって経済活動に影響を受けるリスクは無視できません。

いつ起こるかわからない南海トラフに備えて、家具の固定や備蓄品の準備、避難経路の確認などの対策が必要です。この記事を参考に、今日からできる地震対策を始めましょう。