在宅避難とは、災害時に自宅で避難生活を送ることです。プライバシーを守りながら、避難所での感染症リスクを避けられるのが在宅避難の利点です。一方、食料の確保や情報収集などが難しいというデメリットもあり、日頃からの備えが重要となります。
この記事では、在宅避難について解説します。在宅避難が可能な場合の判断基準や、メリット・デメリットにも触れています。
この記事を読めば、災害時にも慌てずに最適な行動を選択できるようになるでしょう。在宅避難について詳しく知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。
- 在宅避難とは?避難所に行かず自宅で避難生活を過ごすこと
- 在宅避難のメリット3つ
- メリット1. プライバシーを守りストレスを軽減できる
- メリット2. 避難所での感染症リスクを避けられる
- メリット3. ペットと一緒で安心できる
- 在宅避難のデメリット・注意点3つ
- デメリット1. 食料・支援物資が届きにくい
- デメリット2. トイレやゴミなど衛生環境が悪い
- デメリット3. 情報収集が難しい
- 【フローチャート】在宅避難の判断基準
- 判断基準1. 自宅がハザードエリア(浸水・土砂災害)に入っていない
- 判断基準2. 建物に倒壊・大規模な損壊の恐れがない
- 判断基準3. ライフライン停止後1週間は生活できる備蓄がある
- 【チェックリストつき】在宅避難に必要な3つの準備
- 1. 生活に必要なものを準備する
- 2. 地震に備えた家づくりをする
- 3. 避難者カードを作成する
- 見落としがちな通電火災とは?
- 在宅避難でよくある質問
- 津波・地震の際はマンションでも避難したほうがいいの?
- 避難所に行かないほうがいい場合は?
- 避難所に物資だけもらいに行くことはできる?
- 在宅避難に必要なものを準備しよう
在宅避難とは?避難所に行かず自宅で避難生活を過ごすこと

避難情報が警戒レベル4(避難指示)以上や津波警報等の場合は、在宅に固執せず速やかに避難してください。必ずしも避難所へ行くわけではなく、条件を満たしていれば、自宅で避難することも可能です。
ただし、単に普段通り家で過ごすわけではありません。災害時は、電気・ガス・水道などのライフラインが停止し、家屋にも何らかの被害が出ている可能性があります。
通常の生活が困難な状況下では、自ら備蓄した食料や物資を活用したり、外部からの支援を受けたりしながら生活を維持する必要があります。
在宅避難のメリット3つ

在宅避難には、以下3つのメリットがあります。
ここからは、それぞれのメリットについて解説します。
メリット1. プライバシーを守りストレスを軽減できる
在宅避難のメリットは、プライバシーが確保されストレスを軽減できることです。
避難所での共同生活は多くの人とスペースを共有するため、プライバシーの確保が難しいのが実状です。慣れない環境での集団生活は精神的なストレスを感じやすく、体調を崩す人も少なくありません。
一方で在宅避難であれば、住み慣れた自宅という安心できる空間で生活できます。環境の変化によるストレスを大幅に減らし、プライバシーを守れます。
メリット2. 避難所での感染症リスクを避けられる
避難所での感染症リスクを避けられる点も、在宅避難の大きなメリットです。
避難所では多くの人が密集して過ごすため、風邪やインフルエンザ、新型コロナウイルスなどの感染症が広がりやすいというリスクがあります。実際に、新型コロナウイルス感染症の拡大以降は、感染対策の観点から避難所を分散させる分散避難が推奨されました。
在宅避難は、避難所での集団感染のリスクを避けるための有効な手段の1つです。
メリット3. ペットと一緒で安心できる
ペットと離れずに済むことは、飼い主にとって心の支えとなります。自治体によってはペットとの同行避難ができる避難所を準備していますが、特定の動物は受け入れられないケースがあります。
大切なペットと離れ離れになることは、飼い主にとってもストレスです。自宅であれば、気兼ねなくペットと共に避難生活を送れます。なお、「同行避難(ペットと一緒に避難する)」と「同伴避難(同じスペースで過ごす)」は異なり、同伴可否は避難所運用で異なります。事前に自治体方針を確認しましょう。
在宅避難のデメリット・注意点3つ
在宅避難のデメリットは、以下の3つです。
ここからは、それぞれのデメリットを解説します。
デメリット1. 食料・支援物資が届きにくい
在宅避難では、食料や支援物資が届きにくいことがデメリットです。災害発生後、支援物資は基本的に避難所を拠点として配給されます。そのため、在宅避難者には情報が届きにくかったり、物資を直接受け取ることが難しかったりする場合があります。
在宅避難を選択する場合は外部からの支援に頼らず、自力で生活を維持できるだけの備蓄が不可欠です。
デメリット2. トイレやゴミなど衛生環境が悪い
電気や水道などのライフラインが止まると、衛生環境が悪化しやすくなります。水洗トイレが使えない場合、感染症のリスクも高まります。また、トイレを我慢するために食事や水分を減らすことで、エコノミークラス症候群などの健康被害を引き起こす可能性もあります。
また、ゴミの収集が停止すると家の中にゴミが溜まり、悪臭や害虫発生の原因にもなります。災害関連死の多くが自宅で発生している事実もあり、劣悪な生活環境は健康上のリスクを高めることを認識しておきましょう。
デメリット3. 情報収集が難しい
停電や通信インフラの障害が発生すると、テレビやインターネット、携帯電話が使えなくなり、重要な情報が入手しにくくなります。
- 乾電池/手回しラジオ(AM/FM)を常備
- 自治体の掲示板・避難所掲示の定時確認
- 地域FM・防災無線の放送時間をメモ
- 車載ラジオは短時間のみ(バッテリー上がり注意)
たとえば、自治体からの避難情報や支援物資の配給情報、給水所の場所などの緊急性の高い情報をタイムリーに得られない可能性があります。
避難所に行けば必要な情報が掲示されていることも多いものの、在宅避難の場合は自ら積極的に情報を集める努力が必要です。
【フローチャート】在宅避難の判断基準
| ①自宅がハザードエリアに入っていない | →いいえ | 避難所 |
| ↓はい | ||
| ②建物に倒壊・大規模な損壊の恐れがない | →いいえ | 避難所 |
| ↓はい | ||
| ③ライフライン停止後1週間は生活できる備蓄がある | →いいえ | 避難所 |
| ↓はい | ||
| 在宅避難 |
災害が発生した際、在宅避難が可能かどうかを冷静に判断する必要があります。上記のフローチャートを参考に、ご自身の状況を確認してください。
ここからは、各判断基準について解説します。
判断基準1. 自宅がハザードエリア(浸水・土砂災害)に入っていない
在宅避難を判断する上で重要なのは、自身の安全を確保できる場所であるかという点です。そのためには、自治体が公表しているハザードマップを活用しましょう。自宅が洪水による浸水想定区域や、がけ崩れなどの土砂災害警戒区域に含まれていないかを確認します。
これらのエリアに自宅がある場合は、災害の種類に応じて、速やかに指定された避難場所へ避難することが原則です。
判断基準2. 建物に倒壊・大規模な損壊の恐れがない
次に、自宅の建物自体が安全であることが条件です。地震が発生しても建物に大きなひび割れや傾きがなく、余震によって倒壊する危険性がない場合は在宅避難できます。
新耐震基準かどうかは、建物の耐震性を判断する1つの目安です。一般的に、1981年6月1日以降に建築確認を受けた建物は新耐震基準を満たしています。新耐震基準を満たすためには、震度6強から7程度の大規模な地震でも倒壊・崩壊しないレベルの耐震性が必要です。ただし、築年数だけで安全は断定できません。必要に応じて自治体等の耐震診断を受け、専門家の点検を検討してください。
自宅の建築確認日を調べると、新耐震基準で建てられているかを確認できます。自宅の耐震基準がわからない場合は、耐震診断をおこないましょう。
判断基準3. ライフライン停止後1週間は生活できる備蓄がある
ライフラインが停止しても自力で生活できる備えがあるかどうかも、重要な判断基準です。
電気・ガス・水道が止まっても、生活を維持するためには備えが欠かせません。そのためには、最低でも3日分、可能なら1〜2週間分の水や食料、カセットコンロ、簡易トイレなどの備蓄が必要です。
これらの備蓄が不十分な場合は、在宅避難はできません。また、高齢者や乳幼児がいてサポートが必要な場合は、支援が受けられる避難所への移動を検討しましょう。
【チェックリストつき】在宅避難に必要な3つの準備
在宅避難を安全かつ少しでも快適に過ごすためには、以下3つの事前準備が欠かせません。
ここからは、それぞれの準備のポイントを解説します。
【あわせて読みたい】【体験者の声付き】防災グッズで本当に必要なものリスト!準備のポイントや進め方も紹介
1. 生活に必要なものを準備する
| チェック | 生活に必要なもの |
|---|---|
| □ | 非常食 (缶詰、レトルト食品、麺類、米、餅、お菓子など) |
| □ | 水(1人あたり1日3リットル) |
| □ | トイレットペーパー |
| □ | ティッシュ |
| □ | 大型の簡易トイレ |
| □ | 食器 |
| □ | 鍋、やかん |
| □ | ガスボンベ、カセットコンロ ※使用時は必ず換気。車内・テント内・密閉空間では使用不可。可能ならCO(一酸化炭素)警報器も備える。 |
| □ | ランタン |
| □ | テーブルと椅子 |
| □ | レジャーシート |
| □ | 寝袋 |
| □ | 燃料、着火剤、ライター |
| □ | マット |
| □ | 段ボール |
| □ | ポリタンク |
| □ | テント |
ライフラインが止まることを想定し、最低でも3日分、可能なら1〜2週間分の備蓄を段階的に整えましょう。
2. 地震に備えた家づくりをする

安全な在宅避難のためには、家の中の環境を整えることも重要です。
地震の揺れによる被害を最小限に抑えるため、L字金具や突っ張り棒などを活用して、家具の固定をおこないましょう。タンスや食器棚、冷蔵庫などの大きな家具を壁に固定することで、転倒による怪我や避難経路が塞がれる事態を防ぎます。
家具の配置の見直しも大切です。特に寝室やドアの近く、廊下など避難経路となる場所には、倒れやすいものを置かないようにしましょう。
さらに、ガラスの飛散防止対策も有効です。食器棚や窓ガラスに飛散防止フィルムを貼ると、万が一ガラスが割れた際に破片で怪我をすることを防げます。
3. 避難者カードを作成する
在宅で避難所のサービスを利用するケースに備えて、避難者カードを作成しましょう。名称や運用、在宅避難者の登録・配布可否は自治体で異なります。必ず最新の公式情報を確認してください。避難者カードを自治体が指定する窓口や避難所に提出すると、支援情報や物資の提供を受けられます。
避難者カードは、各自治体のホームページからダウンロードできる場合もあります。
見落としがちな通電火災とは?

在宅避難ではその後に起こる二次災害にも注意が必要で、その1つが通電火災です。
通電火災とは、停電が復旧した際に発生する火災のことです。地震の揺れで電化製品が倒れ、停電復旧時に自動的にスイッチが入り、火災につながるケースなどが考えられます。
停電時は ①主幹ブレーカーをOFF → ②各分岐ブレーカーをOFF。復電後は、室内の漏水・焦げ臭・転倒やコード損傷がないか目視点検し、③分岐を順にON → ④最後に主幹をON。少しでも異常があれば該当機器は使わず専門業者へ。感震ブレーカーの設置も有効です。
在宅避難でよくある質問
最後に、在宅避難についてよくある質問にお答えします。
津波・地震の際はマンションでも避難したほうがいいの?
マンションに住んでいても、避難が必要かどうかは状況によって異なります。判断基準は、以下の通りです。
- 自宅がハザードエリアに入っていない
- 建物に倒壊・大規模な損壊の恐れがない
- ライフライン停止後1週間は生活できる備蓄がある
上記3つの基準のうち、1つでも当てはまらない条件があれば、安全を最優先して避難所への避難が必要です。
避難所に行かないほうがいい場合は?
以下の条件を満たしている場合、必ずしも避難所へ行く必要はありません。
- 自宅がハザードエリアに入っていない
- 建物に倒壊・大規模な損壊の恐れがない
- ライフライン停止後1週間は生活できる備蓄がある
避難所ではプライバシーが確保しにくく、他人との共同生活によるストレスが増すことがあります。在宅避難なら快適に過ごせるため、精神的な負担を軽減できます。
避難所に物資だけもらいに行くことはできる?
在宅避難をしている場合でも、避難所で支援物資を受け取れる場合があります。配布の可否・手順・対象は自治体ごとに異なり、避難所登録者優先の場合もあります。自治体によっては、避難所を地域の支援拠点と位置づけ、在宅避難者も食料や水、生活用品などの配布対象としているからです。
ただし、物資の配布場所、時間、対象者などのルールは、災害の状況や自治体の方針によって異なります。避難所によっては、避難所に登録している人を優先する場合もあります。
事前に自治体のホームページや防災無線、ラジオなどで情報を確認することが大切です。また、避難所へ行く際は安全を確保した上で行動しましょう。
在宅避難に必要なものを準備しよう
自宅がハザードエリアに入っておらず、建物が耐震基準を満たし、十分な備蓄がある場合は、在宅避難が可能です。慣れない避難所での生活は精神的なストレスもあるため、条件を満たす場合は、在宅避難が現実的な選択肢になり得ます。
災害はいつ、どこで起こるかわかりません。いざというときに自分と大切な家族の命と生活を守るためには、日頃からの備えが重要です。
この記事でご紹介したチェックリストを参考に、ご家庭に合った備蓄品や住環境の整備を進めましょう。

